くで千鳥に縁のある地名といえば」
ひょろ松は考えていたが、すぐ、
「……千鳥ガ淵……」
顎十郎は、手を拍って、
「いや、ご名答。……俺のかんがえるところじゃ、隅田べり、千鳥ガ淵の近くで女どもが押しこめられ、髪の毛と馬の尻尾でひどい目に逢いながら呉絽を織らされている。……その中で、智慧のある女が、なんとかして救い出してもらいたいと、自分たちが押しこめられているところを教えるために、あんなものを帯の端に織出した」
「なるほど、そんなことでもありましょうか、こりゃ、いかにも大事《おおごと》だ。……でも、阿古十郎さん、あなた、あの都鳥を見ただけで、どうして、それだけのことを洞察《みぬ》きました」
顎十郎は、苦笑して、
「それは、いまわかったんだ」
「えッ、いま?」
「昨日、花世のところで都鳥を見たときは、千鳥ガ淵とまでは察しられなかった。……ところでな、いま、比丘尼の死骸を見たんで、なにもかも、いっぺんに綾が解けた」
「それは、また、どうして?」
「あれは身投げでもなんでもなくて、死骸をあそこまで運んで来て身投げに見せかけたということは、水を飲んでいないことでも、また、草履の裏に土がつい
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