へえ、そうでした」
「日本で織るとなると、いま言ったように、羊の毛もなけりゃ駱駝の毛もない。……すると、どういうことになる」
「どういう……」
「それ、そこで、馬の尻尾……」
 ひょろ松は、膝を拍って、
「いや、これは!」
「……それから、女の髪の毛……。そこで、毛のない比丘尼」
「冗談どころじゃない。なるほど、こりゃ三題噺、みごとにでかしました」
「でかしたのは俺の手柄じゃない。初《はな》っから、ちゃんと筋が通っていたんだ」
 ひょろ松は、感にたえた面持で、
「阿古十郎さん、煽《おだ》てるわけじゃありませんよ、決して、煽てるわけじゃありませんが、あなたは凄い」
「いや、それほどでもない、まだあとがあるんだ。ここまでは、ほんの序の口。……それはそうとあの都鳥を、お前、なんと見た」
「ですから、日本で織っているという証拠……」
「それは、今更いうまでもない。……日本も日本、あの呉絽を織ってるのは江戸の内なんだぜ」
「えッ」
「……都鳥に縁のあるところといえば、どこだ」
「……都鳥といえば、隅田川にきまったもんで」
「都鳥は、どういう類の鳥だ」
「……ひと口に、千鳥の類……」
「隅田川の近
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