道路の真ン中で地団太をふみ、
「これ、口がすぎる。……この俺にたいして、子供とはなんの言い草だ。……ぶ、ぶれいだぞ」
顎十郎は、苦笑しながら、
「そんなところで足ぶみしていないで、まア、お歩きなさい、人が見て笑ってます」
庄兵衛老、禿頭から湯気を立てていきり立ち、
「貴様のようなやつとは並んで歩かん、俺はひとりで行く」
「へへへ、じゃア、まア、前後になって歩きましょう、それだって話は出来る。……ときに、叔父上、それはそれとして、じゃア、死体はどうして運んで来たのでしょうな」
庄兵衛は、ずんずん先に立って歩きながら、
「わかり切ったことを! つづらにでも入れて一ツ橋を渡って来たのだ」
顎十郎は、懐手をしながら、ぶらぶらうしろからついて行く。
「でも、世の中には、船ッてえものもありやす」
「船なら、なにしにわざわざ鎌倉河岸へなど持ってくるか、たわけが! 沖へ持って行って捨てるわい」
「そこがね、お化けのちんみょうなところでさ。あの草履の裏には泥こそついていないが、そのかわり、魚の鱗《うろこ》がついていましたぜ。釣舟へのせて大川からここまで上って来たにちがいありません、そこにお気がつ
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