、
「ときに、わざわざお運びになった御用件はなんです。……とても俺の手におえぬ事件が起きたから、どうか智慧を貸してくれと言われるんでしたら、切っても切れねえ叔父甥の間柄、いつでもお手助けいたしますよ」
庄兵衛は、膝を掻きむしって立腹し、
「この大馬鹿ものッ!……言わして置けば野放図《のほうず》もない。……こ、この俺が貴様などの智慧を借りるようで、天下の吟味方がつとまると思うか、不埓ものめ」
顎十郎は、のんびりと上から見おろしながら、
「ほほう、では、なにかほかに」
「今朝ほど、鎌倉河岸《かまくらがし》へ風変りな死体が浮き上ったというから、南組が出役せぬうちに、後学のために見せてやろうと思って、それで、こうしてわざわざ迎いに来てやったのだわ、有難く心得ろ。……これ、いつまでもそんなところに頬杖をついていずと、さっさと降りて来ぬか。この、大だわけ」
内実はそうじゃない。
最後までとうとう弱味を見せなかったが、この間の印籠の件では顎十郎がきわどいところで自分の窮境を救い、なにもかも自分の手柄にして、この叔父に花を持たせてくれたのだとさとった。
不得要領な顔をしてニヤニヤ笑ってばかり
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