きっぱりした顔つきになって、
「ようござんす。やって見ましょう」
 さすがに吟味方の娘だけあって、こんなことはのみこみが早い。束にして、ズルズルと縁先へ帯地を引きずってゆき、帯の両側を手早くたぐりかえしながら、あらためていたが、
「……どうも、こっちには見えませんよ」
 ひょろ松のほうにも見当らないので、
「こちらにも、ございませんね」
「……すると、あれ一本きりだったのか。……はて、いよいよもって奇異だの……なんのつもりで、骨を折ってあんなものを織り出したんだろう」
 そこへ番頭が帯地の巻物を抱えて帰ってきた。
 三人は三方から引っぱり合って、さり気なくあらためて見たが、今度のぶんにも、やっぱり都鳥の織出しは見つからない。
 花世は、またいずれといって、長崎屋の番頭をかえすと、気味悪そうに眉をひそめ、
「どんなわけがあるのでしょう……わたしア、なんだか、こわらしくなって来ましたよ」
 といっているところへ、小間使に案内されて、お琴が入って来た。
 春木町の豊田屋という大きな袋物屋の娘で、花世の踊の朋輩。京人形のような顔をした、あどけない娘で、顎十郎とはごくごくの言葉|敵《がたき》であ
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