てゆくと、あっ気にとられたような顔をしている花世とひょろ松に、
「番頭をハカしたのはほかでもない、じつは、ちと妙なことがあるんだ」
今まで自分がいじっていた帯地の端のほうを示しながら、
「……まともに見てはわからないが、こんなふうに、すこし斜にしててらして[#「てらして」に傍点]見ると、ここに小さな都鳥が一羽見えるだろう、それ、どうだ」
花世は、帯地の端を持って、てらしてらしすかしていたが、驚いたような顔で、
「ほんに、これは、都鳥」
「ちょっと見には、経すくいの織疵のようにも見えるが、よく見ると、けっしてそうじゃない。……経緯を綾にして念を入れて織り出したものだ」
「そうですよ」
「……妙なこともあるもんだ。支那に都鳥がいるなんてことはきいたこともない。水鳥はいようが、こんな光琳《こうりん》風の図柄などを知っているはずがない」
ひょろ松は、うなずいて、
「ほんに、そうです」
「どうも、こりゃア、日本人が織ったものとしか思われねえの。……ひょっとすると、長崎屋の呉絽にはなにかいわくがあるぜ……番頭が帰って来ない間に、三人で手分けして、みんなあらためて見ようじゃないか」
花世は、
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