い、緯糸《よこいと》には駱駝《らくだ》の毛を使って織りますんでごぜえまして、シャッキリさせるためには、女の髪の毛を梳き込むとかと聞いております。いずれ、口伝のようなものがあるのでございましょう……泉州堺の織場で、いちど真似て作りかけたことがございましたが、やはり、ものにならなんだそうでございます」
顎十郎も、ひょろ松のわきから手を出して、帯地をひっぱり廻していたが、どうしたのか、ちと妙な顔つきになって、
「お番頭、それで、これはみな支那から直接に来たものなのか」
「へえ、さようでございます。……いま申した通り、日本ではまだ真似られませんのでございますから、舶来だけが、ねうちなんでございます」
「ちょっと見には、いや味だと思ったが、こうして手にとって見ると、やはり、珍重されるだけのものはある、しゃっきりしていい味わいだの。……おれも、ひとつ用いて見てえから、あッちにまだ変った柄があるなら、ちょいと見せてくれめえか」
※[#「ころもへん+施のつくり」、第3水準1−91−72]のすり切れた一張羅のよごれ袷が、なにを考えたのか、とほうもないことを言い出す。
番頭が気軽に、へい、へいと立っ
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