、やはり化かされましたろう。……だから、言わねえこっちゃアねえ。なにしろ、初午は魔日《まび》ですからな、ふッふ」
 庄兵衛は、地団太を踏んで、
「うるさい、黙っておれというに」
 顎十郎は、すました顔で、
「まあ、そう怒っても仕様がない……時に、叔父上、あなたが印籠を探していられるってことは、実は、私も知っているんです。……あなたは、落したときめこんで、しきりに戸外《おもて》ばかり探すが、私にすれば、どうも家の中にあるように思われてならないんですがねえ」
「なにをぬかす」
「……印籠がなくなったのが五日前で、万年青が枯れはじめたのがやはり五日前。……この二つの間に、なにかの関連があるのではねえのでしょうか。……ひとつ、この万年青を睨みつけて、じっくりとお考えなすってはどうです」
 庄兵衛は、腹立ちまぎれの渋っ面で、腕を引っ組んで考えこんでいたが、やがて、膝を打って躍りあがり、
「うむ、読めた。……おい、阿古十郎、印籠はナ、この植木鉢の底に入っているんだぞ。……思うに、賊はこれを取りかえしに来て、一旦は、手に入れたが人の足音、というのは、……とりも直さず貴様の足音だったのじゃが、それに驚
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