いて始末に窮し、そんなものを身につけて捕えられた場合の危険を察し、それを万年青の底へ隠した。……その際、たまたま覆蓋が外れて、鳳凰角の薬包が飛び出した。……こちらはそんなこととは知らないで、いつものように水をやったもんだから、毒薬が溶けて万年青を弱らせるようになった……水をやればやるだけ枯れる度合もひどかろうというもんじゃ。……いや、鉢底を改めて見なくともわかっておる。……どうだ、阿古十、貴様も追っては吟味方になろうというなら、この位の知慧を働かせなくてはいかん」
 万年青を鉢から引き抜くと、果して、印籠はその底に潜んでいた。
 庄兵衛老は、日本晴れの上機嫌で、自慢の鼻をうごめかし、
「ほら見ろ、この通りだ……どうだ、これ、どうだ、阿古十……なんと、恐れ入ったか」
 顎十郎は、呆気にとられたような顔で、
「これは、どうも、恐れ入りました」
 庄兵衛老は、鷹揚にうなずきながら、
「判りゃアそれでいい。……以来、あまり広言を吐くなよ。……時に、貴様、もう小遣が無くなったろう」



底本:「久生十蘭全集 4[#「4」はローマ数字、1−13−24]」三一書房
   1970(昭和45)年3月
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