ア及びません。……手前いたって、がさつでね、よくこういう縮尻《しくじり》をやらかします。改めてもう一度お詫びを申しますが、それにしても、でんぐり返しただけで枯れるなんざ、万年青なんてえものもいい加減なもんですな、あんまり尻《し》ッ腰がなさすぎます。……叔父上、ひょっとすると、案外、これはイカモノですぜ」
相手に口をひらかせずに言いたいだけのことを言うと、キョロリと庄兵衛の顔を眺め、
「そう言えば、いま妙なことをぼやいていましたナ。……出る出る。必ず出る、って。……いったい全体、なにが出るんです」
庄兵衛はしどろもどろ。
「な、なにが出ると。……わかり切ったことを……それ、万年青がよ、芽を出す」
花世
顎十郎のほうは叔父がなにを心痛しているかちゃんと知っている。たった今、奥で花世から聞いたので、頼むとひと言いったら、なんとか力を貸さぬでもないと思っているのに、肩で息をつきながら相変らず痩我慢を張っているので、おかしくてたまらない。
「ほほう、それは目出度い。……それでは、すこしおはしゃぎなさい。……ああ愉快、愉快」
と、騒ぎ立てる。
庄兵衛のほうはすこしも可笑《おか》
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