て御分家を強請し、己等一味の勢力を扶殖し、同時に阿部伊勢守を打倒する具に使おうとする意志のよしでございます。以上
[#ここで字下げ終わり]
将軍
「悧巧なようでもやっぱり女。……田舎ものだと、てんから嘗めてかかったのが向うのぬかり。袖にした情夫が、いずれそれくらいなことはするだろうと見こんで、女には寄りつけない評定所のことだから、風来坊のおれにこんな仕事をやらせたのだろうが、おれのほうとすれば、思いもかけないいい仕合せ。明日、湯島天神の境内であの女に逢ったら、よくお礼を言ってやる。……それはそうと、坊さんも祐堂和尚ほどになれば大したもんだ。今頃は不知森で大往生をしたのだろうが、いながらにしてちゃんと水野のことを見抜いていた。……これでおれの手に『五』と『大』の二字が手に入ったから、残るところは僅か一字。……いったい、どんなやつの手にあるのかしらん。しかし、あせってもしょうがねえ、そのうちにかならずあたりをつけて見せる。……こうして、下人が足を踏みこんだことがない吹上御殿へ飛びこんだのだから、どんなふうになっているものか、ついでのことに見物して行ってやろう」
五つの訴状を胴巻
前へ
次へ
全39ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング