顎十郎捕物帳
捨公方
久生十蘭
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)不知森《しらずのもり》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|切《さい》禁物
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)遇変不※[#「目+毛」、第3水準1−88−78]《ぐうへんふぼう》
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不知森《しらずのもり》
もう秋も深い十月の中旬《なかば》。
年代記ものの黒羽二重《くろはぶたえ》の素袷《すあわせ》に剥げちょろ鞘の両刀を鐺《こじり》さがりに落しこみ、冷飯《ひやめし》草履で街道の土を舞いあげながら、まるで風呂屋へでも行くような暢気な恰好で通りかかった浪人体。船橋街道、八幡の不知森のほど近く。
生得《しょうとく》、いっこう纒まりのつかぬ風来坊。二十八にもなるというのに、なんら、なすこともなく方々の中間部屋でとぐろを巻いて陸尺《ろくしゃく》、馬丁《べっとう》などという輩《てあい》とばかり交際《つきあ》っているので、叔父の庄兵衛がもてあまし、甲府勤番の株を買って
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