や渦巻きや馬で満員で、もう立錐の余地もなかった。これには十三世もはなはだ焦慮の体《てい》であったが、何を思ったか今度は、引きちぎるようにチョッキの釦《ボタン》をはずして胸を押しひろげるとワイシャツの胸には、野球選手の運動服のように、赤い心臓と次のような文字が刺繍《ししゅう》してあった。
[#「運は天に在り モンド公爵」の文字の入ったハートの絵(fig47499_06.png)入る]
 三、貴人痴呆にして物の道理の分らぬこと。公爵を先に立てたコン吉とタヌは、南仏の海岸に名だたる、キャンヌの町からやや離れたポッカの真暗がりの野原を、足で探りながら一歩一歩と進んでゆく。
 闇の中から突然姿を現わす怪物のような野生仙人掌《ノオバアル》に胆《きも》を冷し、人間よりも丈の高い、巨大な竜舌蘭《アロエース》の葉の棘《ばら》に額を打ちつけながら、なおもそろそろと道なきに道を求めて漂流すること一|刻《とき》あまり、やがて、密生した西洋蘆《キャンヌ》の奥の闇の中におぼろに白い姿をさらし、死せるがごとくに固く鎧戸《よろいど》を閉ざした城のような一棟の建物の前にゆきあたった。公爵は甲高い声でカラカラ笑いながら、
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