で曇った汽車の窓ガラスへ、指で次のような、象形文字を丹念に書きつけた。
[#弁髪の男の絵(fig47499_01.png)入る]
鹿皮の爪磨きで爪を磨きながら、ゆうゆうと十三世の動作を観察していたタヌは、そこで、いきなり立ちあがって窓のそばまでゆき、せっかくの自由画を掌《て》で拭い取ってから、その右上へ、
[#日の丸の絵(fig47499_02.png)入る]
と、書きつけて、軽蔑したように肩をぴくんとさせた。十三世はしばらく考えていたが、また立って行って、今度は、
[#三の目のサイコロと豚の絵(fig47499_03.png)入る]
と、書いて、何か問いたげに、タヌの顔をみつめた。タヌは、
「おや! やったね」と東洋語をもって叫んでから
[#馬と鹿の絵(fig47499_04.png)入る]
と書いたが、これでは、通じないと思い返したものか、また別に、
[#渦巻きの絵(fig47499_05.png)入る]
を書いて、十三世の頭蓋骨のあたりを指さしてみせた。十三世はまだ何か書きつけたいらしく、しきりに指先をなめずりながら窓を睨んでいたが、残念ながら、ガラスの黒板は、国旗や豚
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