Oに、どうしても、繩でしばられて先に立って行く|支那の大官《マンダリナ》がなければ気分が出ないと思うんですの、最初はね、お父さまにお願いするつもりだったんですけど、お父さまは、どうも気が進まないとおっしゃるんですの。それにこんな鼻の赤い支那人なんかありませんでしたわ、どの本にも! なんといってもこの役は、本当の支那の方にやっていただくに越したことはありませんわね。ですから、本当に申し訳ないんですけど。……ぶしつけなんですけど……」
 ボロン氏も猫背夫人も、思い余ったというふうに、
「申し訳ありませんが……ぶしつけですが……なにしろ娘が……いえ、なにその……」
 と、ひたすら頼み入る、さすがのコン吉もここにおいて、憤然と蹶起《けっき》し、
「あの申し訳ありませんが、僕は支那人ではありません。日本です。どうもとんでもない話だ。だいいち……」と憤《いき》り立ったが、令嬢は相変らず涼しげな眼をみはりながら、
「あら、ちっともかまいませんことよ」と、慰めるようにささやいた。コン吉は、ここで、寝床の上に起きあがり、「そもそも日本は万世一系の……」と日本の日本たる所以《ゆえん》を弁護しようとしかけた
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