、よりほかに道はないのであろう、ともかく、この令嬢は、支那ほど神秘的で幻惑的で、そのうえさらに魅惑的な国は、この広い世界に、断じて二つとあるはずはない。
 だから、クラブントの「光緒皇帝」はもちろんA氏の「支那の暗黒面」B氏の「上海《シャンハイ》にて」C氏の「青竜刀と弁髪について」その他D氏、E氏、F氏、G氏と……みな再読したが、支那に関する書籍をよんでいる間は、吾身が吾身でないような説明のできぬ微妙な心持がする、というのである。
「ですから、あたし、今度の謝肉祭《キャルナヴァル》には「|支那の旅行《ブォアイヤアジュ・アン・シイヌ》」という題の山車《シャル》を出したいと思うんですの、山車《シャル》のうえの飾り物を三つに区切って、右端は支那の子供が大勢ソラの花の下でダンスをしているところ、真中は五重の塔の中で、若い男の支那人が六絃琴《ギタアル》を弾いて、綺麗な令嬢《ドモアゼル》が歌を唄っているところ、左の端は青竜刀で罪人の首を斬っているところ……まあ、大体こんなふうなんですの、そいで子供も令嬢も昨日|西貢《サイゴン》から着いた安南人《アナミ》に頼むつもりなんですけど、この山車《シャル》の
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