キには、いずれの顔も掲載されていなかった。
その次の訪問者は、
[#ここから3字下げ、罫囲み]
ニース市謝肉祭企画委員[#「ニース市謝肉祭企画委員」は1段階大きな文字]
弁護士 フオル・ボロン[#「弁護士 フオル・ボロン」は1段階大きな文字]
[#ここで字下げ終わり]
及び同夫人、同令嬢であった、フオル・ボロン氏は茴香酒《ペルノオ・フィス》の匂いのする赤鼻の肥大漢、同夫人は猫背の近視眼、しかしながら、同令嬢はさながら二月の水仙のごとき、純白の広東縮緬《カントン・クレエプ》の客間着に銀の帯を〆め憧憬《あこがれ》に満ちたあどけない眼を見開きながら、希望の条々につき、綿々とコン吉をかき口説くのであった。
令嬢が希望する条項は、コン吉にとってははなはだ当惑千万、かたがた、多少ならず自尊心というものすら傷つけられる傾向があったので、コン吉にはコン吉の意見があるのである。がしかし菓子箱の蓋の三色版画の中にでもいるようなこの愛《め》ぐしき令嬢の願いを、当惑や自尊心だけで、拒絶していいものであろうか。いずれが是か、いずれが非か、これは、語るままに、令嬢に語らしめて、読者諸賢の判断を乞
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