ノ探険よりの帰途なる由
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 八、虎を指して猫と呼ぶおたんちんぱれおろがす。気息|掩々《えんえん》たる三着の水浴着《マイヨオ》が、オピタル・ド・ラ・ペエに運び込まれ、一様に39[#「39」は縦中横]度の一夜を明かしたその翌朝、一行は種々なる人士の光栄ある訪問を受けた。
 まず劈頭に出現したのは、大きな花束を持った「|小ニース人《プチ・ニソワ》」写真班であった、写真班の希望するところは「花束を持って笑った顔」の写真が一枚撮りたい、というのである。
 さればコン吉とタヌは、水浴着《マイヨオ》の胸に薔薇とミモザの花束をいだき、この世にある限りの「笑い顔」をして見せたが、写真班は、どれもこれも一向笑っているようには見えない、というのである。その後もいろいろと苦心経営したが、やがて、反対においおいと腹立たしくなって来たので、笑う方はやめにして普通の顔の前でマグネシュウムを焚いて勘弁してもらった。
 公爵の方は、これはしきりにおおげさな身振りをし、笑った顔、威張った顔、泣いた顔と、数種の撮影を強要したが、この方は、多分始めっから取り枠の中に乾板がなかったのであろう。、翌朝の新
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