ヲたサント・オノラの朱色の岩は、紫紺色の海にその容脚《あし》を浸し、はるかなる水天一髪の海上には鴎《かもめ》のごとくに浮ぶ一艘の三檣帆船《タルタアス》――さながら夢のようなる春景色、和《なご》やかな日射しにほどよく暖められたコン吉の脳髄は、そろそろと睡気を催したとみえ、どうやら混沌たる状態になって来たので、
「どうもうっとりするほどいい心持ですね、見れば公爵も、筏の上で船を漕いでいられる様子、われわれもひとつ、今日は、社交も昼餐も抜きにして、ゆっくりとここで昼寝をしてはどうでしょう。これが社交疲れというのかして、掌《てのひら》は痛むし、首筋は腫れるし、胃袋もどうやら紅茶臭くなっているようだ、その他の部分も少し休養させなくては護謨《ゴム》が伸びてしまう」とコン吉がいうと、タヌも朦朧たる声で「ではね、そこへ(臨時休業)の札を出しておいてちょうだい、よく窓掛けを閉めてね」とぐるりと向うへ寝返りを打ったと思うと、はやすやすやと寝入ってしまった。
「社交なんぞ鱶《ふか》にでも喰われろ、公爵は腹がへったら、一人で陸《おか》まで泳いで行くであろ。こっちはここで睡るばかり」四辺《あたり》関わぬ大|欠伸
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