鐘は旅館《ホテル》や下宿《パンション》の昼餐の合図。あちらの|正通り《ブウルヴァル》、こちらの丘でそれが音色さまざまに触れ出すと、散歩道《プロムナアド》をうろついていた Jupe−pyjama キャフェの派手な大日傘の下にいた 〔Bole'ro〕 さては海馬島の海馬のように砂浜に寝ころんでいた裸人種《ニュディスト》に至るまで、渚から水がひくように一斉に風景の中から姿を消してしまう。飛入台付《ラドオ・プロン》、大筏《ジョン》の上にいたスポオティング・クラブの面々も、口々に「いずれ後刻」といいながら、どぶん、どぶんと海に飛び込んで昼飯めがけて泳いで行ってしまった。筏《いかだ》の上に残ったのは三人の半狂人、いうまでもなく、公爵、タヌならびにコン吉の組合せだけ。
 籠手《こて》をかざして眺むれば、キャンヌの町を囲むレステレエルの山の斜面の裾から頭頂《いただき》まで、無数に散在する粋で高尚な荘館《シャトオ》と別荘《ヴィラ》――その間では、いまや霞のような巴旦杏《アマンド》の花盛り、暖い太陽の下では枝もたわわに檸檬《シトロン》が色づき、背景には雪の山頂をきらめかすアルプスの連峰、コルクと松の木の生
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