々《ぶらりぶらり》と練り歩く様子、異装にかけてはあえて人後に落ちざるタヌの身装《いでたち》はとみてあれば、今日はまた一段と趣向を凝らしたとみえ、腰の廻りに荒目昆布のごときびらびら[#「びらびら」に傍点]のついた真紅《しんく》の水浴着《マイヨオ》を一着におよび、クローム製の箍《たが》太やかなるを七八個も右の手頸《てくび》にはめ込んだのは、間もなくこの席にて開催さるべき sporting club の茶話会に対する用意と見受けられた。
さて、少《すこ》しく精神に異状を呈したと思われる、フィンランドの公爵、モンド氏の古き館《シャトオ》に捕虜となったコン吉ならびにタヌのその後の朝夕は、直接の肉体的被害はすくなかったが、見る事聞くこととかく頓珍漢《とんちんかん》なことばかり、一口にいえば、やや神秘的とも幻想的ともいえる雰囲気《アトモスフェル》の中に、ただ夢に夢見る心持、昨夜も夕景から「|三匹の小猿荘《ヴィラ・トロワ・サンジュ》」の食堂において、聖《サント》ジャンの祭日にちなんだ大饗宴があると披露されたにより、空腹《ひだる》い腹をかかえ、食堂の長椅子にたぐまって片唾《かたず》をのむところ、薦延《
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