に石炭|孔《あな》の闇の中へと消えうせた。
五、二月の空は南方《ミデイ》特有の深い紺碧に澄み渡る。ミモザと駝鳥の首のような、とぼけた竜舌蘭《アロエース》の花が、今を盛りと咲き乱れるキャンヌの公園では、はや朝から陽気な軍楽隊《ファンファル》、エドゥアール七世の銅像の前を、テニス服を着て足早やに行くのは隣りの別荘の英吉利《イギリス》娘。アルパカのタキシイドを着てひょっこり賭博場《キャジノ》から出て来たのは、多分昨夜、コン吉から、三十|法《フラン》ばかり巻きあげたあの憎い|玉廻し《クルウピエ》であろう。
コン吉が石炭庫の石炭で手ひどくやられた、右足を軽く跛《びっこ》にひきながら、公爵とタヌのあとに附きそって、ブウルガムの広場《スクワアル》をひょろめき下り、しかるのち、オテルサヴォイの露台《テラス》に坐り込んで、アルベエル・エドゥアールの突堤《ジコテ》に続く棕櫚散歩道《パルム・ビーチ》をおもむろに眺めるところ、行くさ来るさの市井雑爼は今日もまた寝巻的散歩服《ジュップ・ピジャマ》の令嬢にあらざれば袖無寛衣《ブルウズ・サン・マンシュ》の夫人《おくさん》、老いたるも若きも珍型異装を誇り顔に漫々然
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