から、
「いいえどうぞ、ご主人から」と、懸命に辞退した。
「ご遠慮も時によりましょう。まずまずお通り下さい」
「でも、なんですか、この穴は少しちいさ過ぎると思うんですけど。……それに、多少不潔でもありますし……」
 公爵は爪をかんで、しばらくコン吉の顔をみつめていたがやがて、
「なあに、いざこざはないさ」とつぶやきながら、壁に立て掛けてあった件《くだん》の細長い袋から、菩提樹《ぼだいじゅ》の杖に仕込《しく》んだ、夜目《よめ》にもどきどきするような三稜[#「稜」に傍点]の|細身の剣《ラツピエール》を抜き出して、コン吉の鼻っ先へ突きつけ、さて「這え!」と、もの柔らかに命令した。
 コン吉は吃驚《びっくり》敗亡、何の否やもあらばこそ、仰せのごとくに四ん這いになると、引き続いて、
「穴に頭を突っ込め! お尻をもたげて!」という厳命。されば、コン吉はお尻をもたげ、麒麟《きりん》が池へ水を飲みに来たような姿勢をとると、公爵は、その尻を、
「おう!」という掛け声もろとも、三稜剣《ラツピエール》で横|薙《な》ぎに引っぱたいたから、コン吉はたまらない、
「うわア!」と一声、悲痛な叫びを地上に残して逆落し
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