のは何でしょう」と、震え声でたずねると、大公はしきりに扉の廻りを手探りしながら、
「あれはフィリップさんという梟《ふくろ》の夫婦。いま鳴いてるのは夫人《おくさん》の方です」と、囁《ささや》くように答えた。「令嬢、この扉のそばに『水仙荘《ヴィラ・ナルシス》』と彫りつけた標札があって、そのそばに呼び鈴があるはずですから、ちょっと探してみて下さい」
タヌは長い夜の探検に疲れたとみえ、草の上に踞《しゃが》み込んでいたが声に応じて門のそばまで進み寄って、マッチをすり、手探りをしいろいろ工風を凝《こら》しているふうだったが、間もなくすぐもどって来た。
「呼び鈴なんかなかったよ、それに、標札には『|三匹の小猿荘《ヴィラ・トロワ・サンジュ》』と彫ってあるんだけど……」
「ほほう、それは奇妙です……でも水仙と猿なら大した違いではありませんね……それにしても呼び鈴がないとは……」と、じれったそうに掌《てのひら》を擦《す》り合わしていたが、突然飛びあがるようにして、
「ああ、そうだ呼び鈴ではない、鐘をたたくのでした。では鐘をたたいてわれわれの到着を知らせましょう」といってジャン、ジャンと二度ばかり軽く鐘を
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