葛ホめまする一日十余時間、休みもくれぬ苛酷《ひど》い賦役。タヌにあっては煮られたマカロニのごとく尻腰のないコン吉も、実は、心中無念でたまらない。するとここに十一月中旬の吉日《とあるひ》、かねて辱知の仕立屋の|お針《クウチュリエール》嬢、美術研究所の標本《モデエル》嬢、官文書保存所《アルキシイヴ》の羊皮紙《パルシュマン》氏、天文台区第二十七小区受持の警官|棍棒《クウルダン》氏を、わが共同の邸宅に招き一|夕《せき》盛大なる晩餐会を催すにつき、食堂、玄関、便所の嫌いなく満堂国花をもって埋むべし、という、例によって例のごとき、端倪《たんげい》すべからざるタヌが咄嗟《さっそく》の思い立ち。仰せ承ったコン吉がクウル・ド・ラ・レエヌの花市を駆けずり廻って買い集めた三十六個の菊花の大鉢、――これを一個|宛《ずつ》地階から六階まで担《かつ》ぎ上げているうち、その二十八個目を三階の階段の七段目まで持ち上げたところで不覚にも眼を廻し、すなわち花もろとも、墜落。己《おの》が身は巨大なる千本咲きの、花鉢の下敷きになって気絶して以来、いささか取りとめなき状態となり、にわかに尊大に構え、放歌高唱し、好んでタヌが愛蔵
前へ
次へ
全32ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング