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アランベエル商会[#「アランベエル商会」は1段階大きな文字]
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この華やかな車を一瞥するや否や、あまりの事にコン吉が、
「うわア」と一声、本能的に逃げ出そうとすると、タヌは、優しく後ろから抱《いだ》きとめて、
「コン吉、嬉しいでしょう。嬉しいでしょう」と、軽くコン吉の背中を叩《タペ》するのであった。
「念を入れるようだが、われわれがニースまで自動車旅行《ドリヴェ》するというのはこの車のことなのかね」と、コン吉が恐る恐るうかがいを立てるとタヌは、
「そうですとも」と、流し目で愛《いと》しげに自動車を見やりながら、
「とにかく、車に乗りたまえ。そんなところに愚図愚図《ぐずぐず》しているとまた風邪を引くよ」と、車の方へコン吉を押しやろうとする。
「しかし、あの中へ入っても、一向|戸外《そと》の気候と変りはないというわけは、この自動車には幌も雨除けもないのだからね。僕はこういう状態のままでニースまで、一〇八八粁《にひゃくななじゅうり》もゆられて行くのはどうも心もとない気がするんだ。もし、途中で雨または雪などが
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