たりしてくれるように頼んでまいったんでございまス。お願いと申しまするのは他でもございません、如何《いかが》でございましょう、往《ゆ》きが四時間、復《か》えりが十時間、向うにいる日を一日と見て、たった二日だけ子供たちをお預りくださるわけにはまいりますまいか。喰べ物の好みはいわず、贅沢もいわず、朝は早起き、戸外《そと》へ出るのは何より嫌い、二番目の女の子などは、背中の真ん中にあるホックまで独りで掛けるんでございまス。身体《からだ》の丈夫なことは、まるでブリキで作った騎手《ジョッケイ》のようで、落しても転がしても、決してこわれるようなことはないんでございまス。物覚えのいいのは母親似でございまして、一月生れの末の子などは、もう「仏蘭西万歳」といえるんでございまス。如何《いかが》なものでございましょうか? これはまあ夫人《おく》さまさっそくご承知くださいまして有難う存じまス。もう、マリアさまのようなあなたさまに、たとえ一日でも二日でも、お預りを願うというのも、ひとえに日ごろの信心のお蔭だと有難涙《ありがたなみだ》にくれる次第でございまス。では、お休みなさいませ。
 四、五位|鷺《さぎ》のプロムナ
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