ノンシャラン道中記
八人の小悪魔
久生十蘭

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)油漬鰯《サルディン》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)西|仏蘭西《フランス》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「虫+廷」、第4水準2−87−52]
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 一九二九年の夏、大西洋に面した西|仏蘭西《フランス》の沿岸にある離れ小島に、二人の東洋人がやって来た。質朴な島の住人が、フランス語で挨拶して見たら、相応な挨拶をフランス語で返すので、これは多分フランス人なんだろうと決め込んで、以来、多少の皮膚の色の曖昧さや、少し黒すぎる髪の毛の色には頓着しないふうであった。
 さて、この二人の東洋人が、この夏を過すことに決めた島というのは、大西洋の中に置き忘れられた絶海の一孤島であって、そこには、風車小屋と、羊と、台ランプと、這い薔薇と、伊勢海老と、油漬鰯《サルディン》の工場と、発火信号の大砲と、「|海の聖母像《マリア・ド・ラ・メール》」と、灯台と、難破した 
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