その合間には、子供らににッと笑って見せ、お襁褓《むつ》を洗い、釦《ボタン》を付け、尿瓶を掃除し、絨氈《じゅうたん》をたたき、――家中はおろか、海の上までも、まるで阿呆鳥《あほうどり》のように飛び廻るのであった。
この間にタヌは、彼女の創案になる「オルガン遊び」で、悪魔どものお機嫌をうかがうため、例の、調子をはずしたキンキラ声で、近隣の鶏を驚かしているのだ。
そもそも、この「オルガン遊び」というのは、これだけが悪魔どもに受入れられ、ご満足をうる唯一の遊戯であって、オルガンとは年の順に並んだ八人の子供がすなわちそれ。鍵盤は取りも直さず彼等の鼻のあたまなのだ。一番|年嵩《としかさ》のジャックは do、ちょうど八番目のチビが si、四番目と五番目は年子《としご》なので、五番目のポオルは fa# だというわけ。そこで演奏の方法は、タヌがそれらの鍵盤を指で押すのであって、押しさえすれば、そこから、ややそれ相応の音《おん》と歌詞とが出て来るという仕組み。
この不可解な楽器は、十日に余る涙ぐましいタヌの努力によって成ったもので、この八人の無政府主義者も、この遊戯に関する限り、ひたすら恭順の意を表
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