す》などはどう?」「ノン」
「じゃ、お馬ですか?」「ノン」
「おや、おや! あんたはインクで髯を書いたのですね? これは立派な伍長さんだ」「ノン」
「では、大統領かも知れないな」「ノン」
「ええと、その絵描き、ってのが汽船だけ書いて、ボートを描くのを忘れたものだから、船が港へ着くたびに、船長は陸まで泳いで行かなきゃならない、っていうの。なにしろ、波だってあまり上手《うま》く書けていないから、泳ぐにしたって楽じゃない、って。……面白いでしょう」「ノン」
「おや! ではお話をよしにして、お医者ごっこをしましょうか? あたしが……」「ノン」
「そいじゃ、これからギニョールの始まりだ。ほら、右手がギニョール、左手がキャヌウズなの。……さあ、始まり、始まり!」
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キャヌウズ――ギニョールさん、ギニョールさん。
ギニョール――あたしはおりませんよ。
キャヌウズ――これはしたり。いない貴方《あなた》が返事をするとは。
ギニョール――したが拙者《せっしゃ》は出られないのでござる。なぜと申せば、拙者の股引《パンタロン》めを鳶《とび》がさらってまいったゆえ。
キャ
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