チックな音色《こわね》で、いろいろ愛想をすればするほど、じりじりと後退《あとしざ》りをする。猫のようにぷう[#「ぷう」に傍点]とやる、踵《くびす》で壁を蹴る。今度は品を代えて、巴里仕込みの上等のボンボンを口の中に入れてやれば、一|※[#「舌+低のつくり」、第3水準1−90−58]《しゃぶ》り※[#「舌+低のつくり」、第3水準1−90−58]ってぽいと吐き出すという情《つれ》ない仕方、世が世であれば、帽子掛けへ猫つるしにつるすとか、どこか固いところをコツンと一つやるとか、コン吉はそれくらいに思ってじりじりするのだが、タヌは昨夜《ゆうべ》からの優しい夢がまだ醒めぬと見え、襤褸《ぼろ》っ屑《くず》の巣の奥から、眼だけ出した二十日鼠《はつかねずみ》のようなこの子供たちを、世にも愛《いと》しいものを見るような眼付きで眺めながら、根気よく無益な会話を続けているのであった。
「君、キャラメル好き?」「ノン」
「おや! では、バナナですか?」「ノン」
「天婦羅《てんぷら》などはどうですか?」「ノン」
「パリの絵葉書をあげましょう」「ノン」
「あんたは色鉛筆。あんたはリボン、ね?」「ノン」
「鶯《うぐい
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