る悪友共へ、この島の牡蠣《かき》酢が乙《おつ》でござるの、海老の刺身で一杯飲めるのと、いわでもよい法螺《ほら》を絵葉書の裏にぬたくって、郵便船《バケボ・ポスト》に托したのはつい昨日《きのう》のこと。見ると聞くとは大違いとは、さてはこのへんのことをいったものであろうと、首をかかえて嘆くばかり。
 五、潮騒《しおさい》はサラサラ発動機船はポンポン。鴎《かもめ》は雑巾のような漁舟の帆にまつわり、塩虫は岩壁の襞《ひだ》で背中を温める、――いとも長閑《のどか》なる朝景色。さて、タヌの声に応じて、廊下の襞に背中を擦りつけ、目刺しならびに並んだ八人の子供というものは、どれもこれも、ゆくゆくはアフリカ行きの流刑船《エグジレ》の水夫になるとか、闘技場《アレエヌ》の暗闇に出没して追剥《おいはぎ》を働くとか、女ならば碁磐縞《ごばんじま》の服を着て、けちなルウレットを廻す縁日の|廻し屋《クルウピエール》、あるいは部落《ゾオン》にたぐまる吸殻《メゴ》屋の情婦にでもなりかねぬ末たのもしい面相|骨柄《こつがら》。いずれも唇をへの字に結び、うわ目でじろじろタヌを見あげながら、むっつり押し黙っているばかり。タヌがロマン
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