い張るが、それは多分、天気晴朗の日に空から降って来たような、天真爛漫な田舎の子供を知らないからなのであろう。まして、ここは海岸の事だから、帆立貝《ほたてがい》のなかから生れたような子供だの、鯨の背中に乗って流れ着いて来たような、うっとりするほどロマンチックな子供も居るに違いないのだ。あたしは、もう今晩は楽しすぎて眠ることができないであろう。コン吉よ、君はどうぞ、寝台の帳《リドオ》を閉めて、あたしに君の顔を見せないようにしてほしいのだ。あたしの楽しい空想や計画は、君の顔を見ると、不思議に破れてしまうからだ。とりわけて、今晩だけは鼾《いびき》をかかない様にしてもらえないであろうか。また時々、夜中に君を揺り起こして、あたしの計画を聞いてもらうつもりだが、その時はどうぞ、夢のような声で、優しくあたしに賛成してもらいたい。
そういうわけであったのかと、コン吉は今さらながら驚くばかり。あれやこれやと周章狼狽して、頓《とみ》に言葉も出ない有様。磨き粉の買い出しから、子供の pipi の始末まで、はるばる巴里《パリー》から手懸《てが》けに来るとは、なんたる因果、身の不仕合せ。はるか東のはずれの国にい
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