わけですから、できるだけにぎやかにして、心細くなく、安心して生ましてあげたいと思って、それで、ご無理をいって、みなさんに来ていただきましたの。ただ、ここに坐っていて下さるだけで、充分なのよ。あの気の毒な茜さんに、どうぞ、力をかしてあげてちょうだい」
 長六閣下が、まっ先に、うなずいた。
「うむ、よかろう」
 イヴォンヌさんが、手を拍《たた》きながら踊りあがった。
「まァ、素敵だこと! 赤ちゃ[#「赤ちゃ」はママ]が見られるわ」
 五人のお嬢さんたちが、一斉に手をたたいた。
「わァ、万歳! 万歳!」
 襖の向うから、茜さんが力弱い声で呼び立てる。
「キャラコさん、……キャラコさん」
 キャラコさんが、威勢よく襖を開けて茜さんの枕元へ飛んで行く。茜さんが、もの怯《お》じしたような眼付きで、キャラコさんを見あげながら、
「キャラコさん、いったい、何が始まったんですの」
 キャラコさんは、襖のところまで戻って行って、そこを一杯に引き開ける。
「茜さん、ちょっと、見てごらんなさい。ここに、こんなに大勢のひとがいますよ。あなたに元気をつけて、立派な赤ちゃんを生んでいただくために、東京から自動車で駈けつけて来てくれましたの。……何人いるのかしら。……一人、二人、三人。……廿五人もいますね。これだけの手がそろっていれば、なんだってできないっていうことはありませんのよ。もう、何も恐がらなくってもいいの。安心してちょうだい」
 茜さんの眼が、涙の奥からキラキラ輝く。
「こんなに大勢の方が……。あたし、もう、これで……」
「おっと、どっこい、どっこい、ここまで漕ぎつけたのに、死にたくなったりしては駄目よ」
 御母堂が、恰幅のいい身体をゆすりながら、茜さんの枕元へ近づいて行く。盛りあがるような膝でゆったりと坐って、
「茜さんとおっしゃるか。……こういう老人《としより》が来たからは、もう、何も心配はいりません。立派な赤ちゃんを生んで、お手柄をなさいよ」
「ありがとう……ございます……」
「出しゃばりのようだけど、ここには剛子の父も来ていますし、久世さんなんかもいられますから、もし、あたしたちがお取り持ちしていいなら、皆んなでじっくり相談して、必ず、そのお母さんという方を説き伏せて上げますから、そのほうの心配もしないでね」
「ほんとうに、……なんと、お礼を申し上げて、いいか……」
「こらこら、
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