くりと腰をのばして、陽ざしをながめる。
「おお、てんとうさまがお見えにならしゃった。……それならば、この間《ま》に、もうひと廻りしようぞ。……どっこいしょ、どっこいしょ」
と、掛声をかけながらベンチから立ちあがって、
「おおきにお世話さまになりました。……では、また明日《あす》。……はい、さようなら。……はい、さようなら……」
と、水飲み台や、ベンチや、まわりの草や樹《き》にいちいち愛想よく挨拶すると、背中を丸くして跛《ちんば》をひきながら、馬のいるほうへヒョックリ、ヒョックリ戻ってゆく。
老人の姿が公園の入口の石段のところにあらわれると、馬は、いかにも待ちどおしかったというように、首を大きくあげたりさげたりしながら、ひひんと嘶《いなな》く。老人は馬のそばへちかづいていって、
「おう、おう、待ちどおだったか、待ちどおだったか」
と、いって、平手で、軽くその首をたたくのである。
二
キャラコさんの部屋の東側の窓は、公園の土手の真上にあいているので、そこから、広場の半分と、公園の入口と、休憩所の全部をひとめでみわたすことができる。
春から夏までのあいだは、子供たちが
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