キャラコさん
馬と老人
久生十蘭

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)煤黝色《ビチューム》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)ひと口|頬張《ほおば》って

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「麥+皮」、第3水準1−94−77]
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     一
 秋が深くなって、朝晩、公園に白い霧がおりるようになった。
 低く垂れさがった灰色の空から、眼にみえないような小雨がおちてきて、いつの間にかしっとりと地面を濡らしている。樹々の幹も、灌木も、草も、みな、くすんだ煤黝《ビチューム》色になり、小径の奥の瓦斯灯が、霧のなかで蒼白い舌を吐いている。
 風の吹いたあくるあさは、この小さな公園はすっかり落葉で埋まってしまう。桐や、アカシヤや、赤垂柳《あかしで》などの葉が、長い葉柄《え》をつけたまま小径やベンチの上はうずたかくなる。
 公園の看手が箒をもってやってきて、それを掃きあつめていくつも小山をこしらえる。落葉を焚《た》く火で巻煙草をつけ、霧のな
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