かに紛れこんでゆく白い煙りをながめながら、間もなく冬がくる、とつぶやくのである。
公園の広場をとりまく灌木のひくい斜面のしたに、水飲み場のついた混凝土《コンクリート》の小さな休憩所がある。
砂場や辷り台で遊んでいる子供らを見張りながら、保姆《ほぼ》たちがここでおしゃべりをする。夏の暑い日には、演習に来た兵隊さんが汗を乾《かわ》かし、俄か雨のときには、若い二人づれがこのベンチのうえで身体を寄せ合うようにして、じっと雨脚をながめていたりする。
しかし、もう秋が深くなったので、この小公園のなかは急にひっそりとなり、落葉を掃く看手のほかは、この休憩所へやってくるものもまれになったが、ただひとり、ひるごろ、毎日きまってここに坐っている老人があった。
汚れた絆纒《はんてん》に、色の褪せた紺腿引をはき、シベリヤの農夫のように、脚にグルグルと襤褸《ぼろ》をまきつけている。指の先まで皺のよったあわれなようすをした白髪頭の老人で、庭木の苗木をすこしばかり積んだ馬車を輓《ひ》いてきて、いつもここで午食《ひる》をつかっている。
襤褸と皺に埋まったような老人もそうだが、馬のほうもまたたいへんな観物であ
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