る。
古典的《クラツルク》な馬とでもいうのか、頭が禿げて、ひどく悲しそうな顔をしている。的確にいおうとするなら馬というよりは、皮の袋といったほうがいいかもしれない。お尻の汗溝のあたりも、首の鐙《あぶみ》ずりのところも、肉などはまるっきりなくなって、鞦《しりがい》がだらしなく後肢のほうへずりさがり、馬勒《はみ》の重さにも耐えないというように、いつも、がっくりと首をたれている。
横腹には洗濯板のように助骨《あばらぼね》があらわれ、息をするたびに、波のようにあがったりさがったりする。なにより奇妙なのはその背中だった。鞍下のあたりがとつぜんにどっかりと落ちこんでいるので、首とお尻がむやみに飛びあがり、横から見ると、胴の長いスペイン犬そのままだった。いつも目脂《めやに》をいっぱい溜め、赤く爛《ただ》れた眼からたえず涙をながしている。
おまけに、その馬は跛《ちんば》だった。
むかし、ひどい怪我をしたのらしく、右の後脚がうんと外方《そと》へねじれてしまい、ほかの三本の肢より二寸ばかりみじかい。肢をピョンといちど外へ蹴《け》だしてから、探るような恰好で蹄《ひずめ》を地面におろす。そのたびに、身
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