《ひも》じい馬にとって、それはまあ、なんという素晴らしい御馳走なのであろう! そしてまた、老人にとっても、それを喰べている自分の馬を眺めるということは、どんな有頂天な喜びであろう。
ほんのちょっとしたことだった。長人参の悪口さえいわなければ、馬も老人も、わけなくその喜びを味わうことができたのだった。
キャラコさんは、逆《のぼ》せあがったような気持になる。どんな卑劣なことをしてでも、馬と老人にその喜びを味わわせてやりたいと思って、気もそぞろになる。
キャラコさんが、そろそろと切りだす。
「……ねえ、おじいさん。……これは、ほんの譬《たと》えばなしですけど、だれか通りがかりのひとが、この馬さんを見て、すっかり気に入ってしまうとしますね」
「ああ、ありそうなことでござります」
「……それで、ご褒美《ほうび》になにか美味《おいし》いものを、馬さんの口元へ差しつけたとしますね。……すると、この馬さんは、いったい、どうするかしら?」
「はい、それは、ものによるのでござります」
「すると、気にいったものなら、食べてもらえるわけなのね」
「かくべつ、遠慮するようなこともいたしますまい」
「もし、
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