しているのだと、考えて考えられぬこともない。
キャラコさんが、感動の極といったような声を、だす。
「そうだとすれば、なんという贅沢な馬さんなんでしょう! そんなしあわせな馬さんなんて、あとにもさきにも聞いたことがありませんわ」
「じつに、はやもう!」
「あたし、この馬さんを見たとき、なんというおっとりとしたようすをしているんだろうと、思いましたの。まったく、理由のないことじゃありませんでしたわ。そんなにだいじにされて、したいようにしているのだから、それで、こんな上品な顔つきになるのですね」
キャラコさんは、嘘をついたのではない。ほんの、ちょっとばかり、誇張したのに過ぎない。老人の夢に賛成することが、老人を慰めるいちばんいい方法だと思ったから。……そして、ひょっとして、こんなふうにでもいったら、見向きもしないというこの長人参を、気位《きぐらい》の高いこの馬さんに食べていただけるようなことになるかも知れないと思って。
背中に隠している長人参の葉が、キャラコさんの手のなかで火のように燃える。なんとかして、この施物《せぶつ》を受けとらせるうまい口実を探し出そうと思って、キャラコさんは、夢
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