ざります。けだものと人間が、ながねん連れそって暮らしてゆくには、お互いの親切がなくてはやってけんのでござります」
そして、皺の中へ眼をなくして、また、いとしそうに馬のほうへふりかえりながら、
「こいつはまァ、気のいい、ひと懐《なつ》っこいやつではありまするが、ただひとつ困ったことは、喰べるものに気むずかしいことでござります。……それと申しますのも、あまり、甘やかしたせいでござりましょうなれど、乾草《ほしぐさ》や藁《わら》などは見向きもいたしませぬ。……牧草でも、レッドトップならば匂いぐらいは嚊《か》ぎまするが、チモーシとなれば、はやもう、鼻面《はなづら》も寄せん。燕麦《えんばく》に大豆。それから、※[#「麥+皮」、第3水準1−94−77]《ふすま》に唐もろこし。……それも、水に浸して挽割《ひきわり》にし、糠《ぬか》と混ぜて練餌《ねりえさ》にしてやるのでなければ、てんから受けつけんのでござります」
老人は、夢中になって、人の好さそうな顔を紅潮させながら、
「ああ、じっさい! なんということでござりましょう!……林檎《りんご》を日に五つずつ。……角砂糖は喰べ放題。……カステラを喰べ散ら
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