いというふうに、馬のほうへ流眄《ながしめ》をつかいながら、
「……こんな片輪ものですけに、立派ということはござりませんがな、気のいいことにおいては、けして、ほかの馬にひけをとらんのであります」
「それに、元気そうですわ」
「いやはや、わし同様、すっかり老いぼれてしまいまして、はやもう、なんの芸もないのでござります」
「そんなに謙遜なさらなくてもだいじょうぶよ。だれが見たって感心するにきまってますわ。うちにも一匹おりますけど、とても、この馬とはくらべものになりませんの」
「お嬢さま、あなたは、ほとほと馬がお好きと見えまするの」
「ええ、大好きですわ。でも、こんな立派な馬を見るのははじめてよ。……なるほど、すこし跛《ちんば》をひくようですけど、そんなことは欠点にならないとおもいますわ。なによりだいじなのは、優しいということよ。……それはそうですわねえ、おじいさん。あなただって、そうお思いになるでしょう。いくら走るのが速くても、力があっても、意地悪ではとるところがありませんわ」
老人は、嬉しそうにうなずいて、
「はい、仰せのとおりなのでございまする。何がどうあろうと、情け知らずでは駄目でご
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