は、日暦《カレンダー》や、目覚し時計や、琥珀貝《こはくがい》でつくった帆前船《ほまえせん》などがのっている。明け放した硝子扉《ケースメント》の向うは、ゆるい起伏のある丘で、はるか遠いその稜線《りょうせん》のうえに、中世紀の城のような白い家がぽつんとひとつ立っている。
 部屋のなかは、濃い褐色《セピア》と黒っぽい藍色《あいいろ》のなかに沈んでいるのに、外景には三鞭酒《シャンパン》色の明るい光が氾濫している。夏の、あのはげしさはなく、しっとりと落ち着いた調子がある。窓のそばに、燃えるような雁来紅《はげいとう》があるので、秋の中ごろの午後の風景だということがわかる。
 一体にクラシックな画風で、日暦《カレンダー》の日づけや草の葉の細かい葉脈まで克明に描《か》いてあり、襞《ひだ》の深い丸い丘や城のような建物の背景のぐあいは、ちょうど、『モナ・リザ』の、あの幻想的な遠景とよく似ている。
 だいたい、こんなふうな絵である。格別、どこといって奇抜なところもなければ、目をそばだたせるようなところもない。狭い画面のなかに、いろいろなものが押し並んでいるので、むしろわずらわしくさえ感じられる。
 キャラコ
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