うような、ひろい、おおまかな微笑である。
キャラコさんは、やれやれ、と思う。ようやく、楽に口がきけるようになる。
「あなたは、もしかして、あたくしを知っていらっしゃるのではないでしょうか」
そのひとは、元気のいい声で笑い出した。
「どうして、知らない訳があるもんですか。……君はね、むかし、僕をひどく手こずらしたことがあるんだよ。……覚ていないかも知れないが……」
よく響く声でこういうと、無造作にキャラコさんの手をとって、
「それにしても、ずいぶん、綺麗になったもんだ! それに、立派な顔をしている」
キャラコさんは、楽しすぎて、すこし茫《ぼう》となる。そのひとの掌は大きく温かくて、その手にとられていると、なんともいえない頼母《たのも》しさを感じる。
いいたいことが、あれもこれもと沢山あって、なにからいい出していいかわからない。大あわてに狼狽《あわ》てたすえ、わけのわからないことを口走る。
「あなた、あたしがどうしてここへ来たか、ごぞんじ?」
そのひとは、また笑った。
「知りませんね」
キャラコさんは、ふうん、と鼻を鳴らす。
西洋骨董店の飾窓で絵を見てから、ここへ辿《たど》
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