で、それに、いろいろ空想的なものがあるでしょう。そんなところにひきつけられているんだと思うわ」
イヴォンヌさんは、頑固に首を振る。
「信じられないわね。あなたがあの絵にひきつけられているのは、そんな高尚なことじゃなくて、あの絵の中の生活を愛しているのよ。あたしには、それが、はっきりわかるの」
キャラコさんは、聞きとれないような声を、だす。
「よく、わからないけど……」
イヴォンヌさんは、ニヤリと笑う。
「わかるようにいってあげましょうか。……あなたはね、絵のなかのお嬢さんのように、あの青年にあんな深い眼付きで凝視《みつ》められたいと思っているんだわ。これが、あの絵があなたをうっとりさせるゆえんなのよ。……どう? おわかりになった?」
キャラコさんは、横を向いて、またきこえないふりをした。
なんだか、ぼんやりとわかりかけてきた。もっとも、キャラコさん自身も、心のどこかで薄々《うすうす》感づいていたのである。
ただ、油絵の中の青年が好きになったなどというのはあまりにも奇抜すぎるので、キャラコさんの心が、それを承認することを拒みつづけていたのである。
しかし、それも、よく考え
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