な仕方でキャラコさんの手をふり切って、毒々しい口調で叫んだ。
「いいから、独りで歩かしてください。これから毎日散歩に来なくてはならないのだから、道に馴れておこうと思ってやって来たところなんです。おせっかいはごめんだ」
黒い眼鏡だけのような顔を、キャラコさんのほうへふり向けると、
「……もっとも、一生私の手をひいて下さるというなら別ですがね。たった一度くらい世話してもらったってなんにもなりゃしない」
そして、空うそぶくようにして、は、は、は、と笑った。
すこし、ひどいいい方だったが、キャラコさんは気にもかけずに、
「でも、ここはひどい石ころ道で、とても危ないのよ。……それに、陽もくれて来ましたし……」
佐伯氏は、ふん、と鼻を鳴らして、
「陽も暮れて来たし……か。私にとってはどっちみち同じこってすよ、お嬢さん。はじめっからまっ暗なんだから。……まあ、放っておいてください。私はめくら[#「めくら」に傍点]だが、あまりめくら[#「めくら」に傍点]扱いにされるのは好きじゃないんです」
キャラコさんは、すこし悲しくなってきた。しかし、自分があまりうるさくしたのがいけなかったのだと思いかえ
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