キャラコさん
蘆と木笛
久生十蘭

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)桟橋《さんばし》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)八|字髯《じひげ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]
−−

     一
 風がまだ冷たいが、もう、すっかり春の気候で、湖水は青い空をうつして、ゆったりとくつろいでいる。
 キャラコさんは、むずかしい顔をして、遊覧船の桟橋《さんばし》で、釣りをするのを眺めている。すこしばかり機嫌が悪いのである。
 キャラコさんは、半月ほど前から、蘆《あし》の湖の近くの小さな温泉宿で、何ともつかぬとりとめのない日を送っている。本を読むか、日記をつけるか、散歩をするか、この三つのほかにすることがない。佐伯氏と話すことのほかは、なにもかもすっかり飽き飽きしてしまった。
 キャラコさんは、早く家へ帰って家事の手伝いをしたり、ピアノのおさらいをしたり、今までどおりキチ
次へ
全48ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング