茜をせめないでください。間違っていようとも、あれは、あれなりの真情で私を愛しているのですから。……嘘だったということは、今日はじめてわかりましたが、茜から、あなたが東京へ行かれたと聞くと、私は闇夜《やみよ》の中でとつぜん光明を失ったような気持になって、また決心がにぶり、茜にすすめられて、今日のような不埓《ふらち》なまねをいたしましたが、でも、もう大丈夫です。私の決心はぐらつきません。贖罪《しょくざい》をして新しく生まれ変わったら、その身装《みな》りをお目にかけに行きます。……キャラコさん、私はあなたにひどい嘘をつきましたが、どうぞ、ゆるしてください。あなたにだけは、拐帯《かいたい》犯人だということを知られたくなかった。ここで語り合ったあの姿で、あなたの記憶にとどめて置きたかったからです」
プツンと言葉を切ると、蘆の間でゆるゆると身体を起こしながら、
「……さあ、ずいぶんしゃべった。……では、そろそろ出かけることにしましょう。……いつか、私がそういいましたね。なんでもなくしてくださったあなたの親切が、私にどんなたいへんな影響をあたえたか、いつか必ずわかるときが来るって。……つまり、これ
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