が、その結果《レジュルタ》です」
キャラコさんは、発動機艇《モーター・ボート》の桟橋まで佐伯氏を送って行った。
発動機艇《モーター・ボート》は渚を離れた。
佐伯氏は船尾に坐って、ゆるゆると木笛《フリュート》を吹いている。
岸では、キャラコさんが長い蘆を振ってわかれの挨拶をする。
発動機艇《モーター・ボート》の影が見えなくなっても、木笛《フリュート》の音はまだきこえていた。
次の日のひるごろ、キャラコさんと茜さんは、長尾《ながお》峠の頂上に立っていた。眼のしたに、蘆《あし》の湖《こ》が、古鏡のように、にぶく光っている。
キャラコさんは、ここから御殿場《ごてんば》のほうへくだり、茜さんは、仙石原《せんごくばら》のほうへおりて、それから東京へ職業《しごと》をさがしに行くのである。
いよいよ別れる時がくると、茜さんが、いった。
「兄は、ほんとうにあなたを愛していたのではないでしょうか。あなたが立上《たてがみ》氏を呼んだと聞くとその夜、兄は夜半《よなか》にそっと起きあがって、稀塩酸《きえんさん》でじぶんの眼をつぶそうとしているのです。必死なようすでしたわ。……あなたにだけは嘘つ
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