かれあし》の間にあおのけに寝ころんでいた。
 またうるさがらせてはいけないと思って、猫のように足音を忍ばせながら、そっといま来たほうへ帰りかけると、とつぜん、佐伯氏が声をかけた。
「ああ、きのうのお嬢さんですね」
 キャラコさんは、ギョッとして立ちどまった。
「ええそうよ……。あたし、あちらへまいりますわ。お邪魔してはいけませんから……」
 佐伯氏は、あわてたように身体を起こすと、
「邪魔だなんて、……よかったら、……すこし、話して行ってください」
 そういって、狭い蘆《あし》の間で、すこし身体をすさらした。
 とげとげしたところはなく、今日はたいへん静かな口調だった。
「でも、あなたひとりでいらっしゃるほうがお好きなんでしょう。気がつかないでこんなほうへやって来てしまって……。あたし、やはり、あちらへまいりますわ」
 佐伯氏は、唇のはしに神経質な微笑をうかべながら、
「そんなに気をつかってくださらなくとも結構ですよ。……でも、あたしのようなものとお話になるのがおいやなのなら……」
 キャラコさんが、あわてだす。
「あら、そんなことありませんわ。いやだなんて……。あたしは、ただ、お邪魔
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