かれあし》の間にあおのけに寝ころんでいた。
またうるさがらせてはいけないと思って、猫のように足音を忍ばせながら、そっといま来たほうへ帰りかけると、とつぜん、佐伯氏が声をかけた。
「ああ、きのうのお嬢さんですね」
キャラコさんは、ギョッとして立ちどまった。
「ええそうよ……。あたし、あちらへまいりますわ。お邪魔してはいけませんから……」
佐伯氏は、あわてたように身体を起こすと、
「邪魔だなんて、……よかったら、……すこし、話して行ってください」
そういって、狭い蘆《あし》の間で、すこし身体をすさらした。
とげとげしたところはなく、今日はたいへん静かな口調だった。
「でも、あなたひとりでいらっしゃるほうがお好きなんでしょう。気がつかないでこんなほうへやって来てしまって……。あたし、やはり、あちらへまいりますわ」
佐伯氏は、唇のはしに神経質な微笑をうかべながら、
「そんなに気をつかってくださらなくとも結構ですよ。……でも、あたしのようなものとお話になるのがおいやなのなら……」
キャラコさんが、あわてだす。
「あら、そんなことありませんわ。いやだなんて……。あたしは、ただ、お邪魔
前へ
次へ
全48ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング